東京地方裁判所 昭和40年(ワ)8189号 判決 1974年1月29日
原告 東部氷販売株式会社
右代表者代表清算人 柴田秀治
右訴訟代理人弁護士 近藤善孝
被告 大川テイ
<ほか五名>
右六名訴訟代理人弁護士 山田茂
主文
一 被告大川テイは、原告に対し、金七〇万三、〇五二円及びこれに対する昭和三七年一二月一〇日から支払ずみまで年五分の金員を支払え。
二 被告大川光司、同高柳信次、同大川雅三、同大川恵子、同大川雅子は、原告に対し、それぞれ金二八万一、二二一円及び右の各金員に対する昭和三七年一二月一〇日から支払ずみまで年五分の金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを五分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
五 この判決は第一、二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告大川テイ、同大川光司は原告に対し各自金一、一四七万五、一一八円及びこれに対する昭和三七年一二月一〇日から支払ずみまで年五分の金員を支払え。
2 原告に対し
被告大川テイは金三六万四、八一六円
同大川光司は金一四万五、九二六円
同高柳信次、同大川雅三、同大川恵子及び大川雅子は各自一六七万五、九四二円
並びに右各金員に対する昭和三七年一二月一〇日から各支払ずみまで、年五分の金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求はいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和二九年三月三日氷の仕入販売、薪炭の仕入販売、飲食店の経営及びこれに付帯する事業をなすことを目的として設立され、昭和三七年九月二九日の臨時株主総会における決議により解散した目下清算手続中の株式会社であり、訴外大川金吾(昭和四〇年六月九日死亡、以下訴外金吾という)は右解散までの間原告会社の代表取締役であった者、被告大川テイ(以下被告テイという)はその妻、被告大川光司、同高柳信次、同大川雅三、同大川恵子、同大川雅子(以下、以上五名をそれぞれ、被告光司、同信次、同雅三、同恵子、同雅子という)は右訴外人の実子である。
2(一)(二) ≪省略≫
(三) 訴外金吾、被告テイおよび同光司は共謀して、原告所有の左記(イ)ないし(リ)の九台の車輛を原告会社解散の日である昭和三七年九月二九日ころ横領し、同(ヌ)ないし、(オ)の三台の車輛の所有名義を昭和三七年六月三〇日勝手に被告テイ名義に移転し、かつこれら車輛を秘匿して横領し、原告の返還請求にもかかわらず返還せず、原告の所有権(左記(ロ)(ハ)(ニ)(ヘ)(ト)(リ)(オ)の各車輛)または停止条件付所有権(左記(イ)(ホ)(チ)(ヌ)(ル)の各車輛)を失わせしめ(現在その所在が不明であるか、現存していても当時の価値はもはや存在しないから所有権を失ったに等しい)、原告に左記時価合計三八七万円相当の損害を蒙らせた。
(イ) 六ね一八五三 ダイハツ六二年式三輪、当時の価額(以下同じ) 五八万円(後記のとおり(ホ)とともに買入れ。)
(ロ) 四あ一八〇五 トヨペット五七年式四輪 一〇万円
(ハ) 四あ一八二五 トヨペット五七年式四輪 一〇万円
(ニ) 六き五二三六 ダイハツ五七年式二トン車 一〇万円
(以上の(ロ)ないし(ニ)は、もと高梨八二郎の所有であったが、同人から原告が譲受けて所有権取得)
(ホ) 六ね一八七七 ダイハツ六二年式三輪 四四万円
(右(イ)及び(ホ)は原告が昭和三七年三月末日合計一二八万円で買った。内七五万七、〇〇〇円は弁済ずみ)
(ヘ) 六さ五七八二 ダイハツ六一年式三輪 四〇万円
(原告が昭和三六年六月一日四三万円で買い、昭和三七年九月一五日代金完済)
(ト) 六さ五五一八 ダイハツ六一年式三輪 五五万円
(原告が昭和三六年五月二四日五六万九、〇〇〇円で買い、同三七年八月三一日代金完済)
(チ) 六ね〇二三二 ダイハツ六二年式三輪 三五万円
(原告が昭和三七年一月二〇日五二万八、〇〇〇円で買い、内二三万五、八〇〇円弁済ずみ)
(リ) ミゼット 五万円
(ヌ) 四ね九〇一八 トヨエース六一年式四輪 四〇万円
(原告が昭和三六年六月二八日五四万三、七四〇円で買い、うち一〇万六、八〇〇円のみ未払)
(ル) 四ね八二一七 トヨエース六一年式四輪 四〇万円
(原告が昭和三六年六月一六日五四万六、二五三円で買い、うち五万六、〇〇〇円のみ未払)
(オ) 四ふ六二三〇 トヨエース六一年式四輪 四〇万円
(原告が昭和三六年五月一八日五三万六、二三九円で買い、同三七年九月一五日代金完済)
≪中略≫
二 請求原因に対する認否
1~3 ≪省略≫
4 同2の(三)の事実は否認する。
(ロ)ないし(ニ)は原告会社の所有ではなく、訴外金吾が昭和三六年三月二二日訴外高梨八二郎から買受けたものである。仮に原告所有であったとしても右同日訴外金吾が原告から買受けたものである。
(ヘ)ないし(チ)は金吾が昭和三七年三月一六日原告から合計一四四万一、四七五円で買受けたものである。
(リ)は訴外金吾が昭和三七年九月二九日原告より贈与を受けたものである。仮に然らずとするも現に所持しており何時にても引渡す用意がある。
5~7 ≪省略≫
三 抗弁
1 ≪省略≫
2 請求原因2の(三)の不法行為に対する抗弁
仮に(ヘ)、(ト)及び(チ)の車両が原告の所有であるとしても、原告は別訴(当庁昭和三八年(ワ)第五九一七号事件―これは訴外産業運送有限会社の設立取消を求める訴で、その理由は大川金吾が、本訴において請求されている損害賠償債務を免れる目的で右有限会社を設立したので、これが詐害行為に当るというのであり、従って原告としては、原告が大川金吾に対しいかなる債権を有するかを主張立証しなければならなかった)において、当初右三車輛が原告の所有である旨主張していたが、その後右車輛が訴外金吾の所有であることを認めて右主張を撤回したのである。
しかるに、本訴において右車輛が原告の所有であることを前提とし、不法行為として請求するのは信義則もしくは禁反言の法理から許されないというべきである。
四 抗弁に対する答弁
1 ≪省略≫
2 抗弁2に対し
原告が別訴で三車輛が訴外金吾の所有であることを認め、被告主張のとおり、その主張の撤回をしたことは認めるがその余は争う。
別訴で自白し、主張を撤回したからといって本訴においてこれに反する主張をなしえないとはいえない。
第三証拠≪省略≫
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二1 請求原因2(一)の金員のうち(1)積立金名義の金一万二六六円、同(6)のうち三、四四一円、同(7)のうち八万四、九一六円が昭和三七年九月二九日当時存在していたことは当事者間に争いがないが、本件全証拠によるも右各金員を訴外金吾、被告テイ同光司が横領したと認めるに足る証拠はない。
2 原告は請求原因2(一)の(2)法定準備金名義の金、(3)別途積立金名義の金、(4)前期(原告はこの点につき昭和三六年九月期と主張するが弁論の全趣旨によると昭和三六年三月期と主張すべきを右のように誤って主張したものと認められる)繰越利益金、(5)当期(昭和三七年三月三一日期―第九期)利益金が存在したと主張するところ、≪証拠省略≫によれば、原告会社の昭和三七年三月三一日現在の貸借対照表に右各項目および金額が計上されていることが認められるが、右≪証拠省略≫によれば右各項目および金額は右貸借対照表資産の部記載の資産とは別に存在するものではないことが明かであり、本件全証拠によるも右資産の部掲記の資産のほかに前記各項目および金員が存在したと認めるに足る証拠はない。
3 次に、昭和三七年三月三一日現在、現金二万四、〇〇〇円および預金一〇〇万円が存在していたことは当事者間に争いがないが、本件全証拠によるも同年九月二八日現在前記三、四四一円をこえる現金および八万四、九一八円をこえる預金がなお存在していたと認めるには困難であり、かえって、≪証拠省略≫によれば当時原告会社において氷の販売による利益を少くするためその売上の一部を除外して裏預金に入金していたこと、昭和三七年五月ころ原告会社の株主兼役員であった訴外臼井真治らが訴外金吾と対立し、原告会社を解散させ、同訴外人が産業運送有限会社を設立しようとするのを阻止するため原告会社の営業のサボタージュをしていたことが窺われる。
してみると右三、四四一円をこえる現金および八万四、九一八円をこえる預金を訴外金吾、被告テイ、同光司が横領した旨の主張は理由がないことになる。
4 従って請求原因2(一)の請求は理由がないというべきである。
三1 ≪証拠省略≫を総合すると、
(一) 昭和三五年三月ころ、原告会社において、株主に配当するためあるいは氷販売業の取引が夏期に集中し、冬期激減するので、副業を営む資金とするため、氷販売代金の一部を表帳簿よりはずし、これを裏勘定として積立てることになったこと
(二) 裏勘定は株主に公開する旨の約束のもとに、山田定一名義の銀行預金口座を第一銀行深川支店に設け、その通帳および印鑑は訴外山田定一が保管にあたり、裏勘定の計算には訴外金吾、同小山岩雄があたり、原告代表者柴田が裏勘定の監視にあたることとなったこと
(三) 同年六月ころ、前記通帳および印鑑を訴外金吾が保管するようになり、同訴外人は原告会社の裏勘定のために更に第一銀行深川支店に大川金吾、山田染吉、大川テイ等名義の、日本相互銀行深川支店に大川金吾、大川テイ等名義の各銀行口座を設けたが、訴外金吾以外の株主らは右各口座のうち山田定一名義の口座以外の存在は知らなかったこと
(四) 同年秋ころから原告会社において前記(一)のような事情で副業として運送事業を営むようになり、昭和三六年二月ころ、右運送業を大々的に行うため訴外高梨八二郎から営業ナンバー付の車三台を購入し、これらの車を看板にして、日本通運近辰商店、日暮里合同、帝国梱包、日清運送等から仕事を請負い営業していたこと
(五) 原告会社は運送業の名義として高梨運送(江東営業所)産業運送、大川運送等の名義を使用していたこと
(六) 原告会社では運送部門専門の運転手を昭和三七年一月ころにおいては一〇名近く雇傭していたこと
(七) 運送業による収益の大部分を裏勘定に入れ、そのための運転手の給料、ガソリン代、保険金、車庫代等の経費の多くは表勘定から出されていたこと
(八) 原告会社では、氷の売掛金は女子事務員が集金し、これを主として訴外金吾が受け取り、同訴外人は女子事務員に適宜に指示して右金員を前記(二)、(三)の各口座に振り分けて預金させていたこと
(九) 運送関係の集金は、訴外金吾、同小山、同庄司喜一郎、同臼井真治および被告光司がなし、集金した金は訴外金吾に渡していたこと
(十) 訴外金吾は原告会社の支払及び同訴外人個人の支払をいずれも同じポケットから現金を取り出してなしていたこと
(十一) 訴外金吾は裏勘定につき、ノートに鉛筆書の帳簿を作っていたこと
(十二) 当初の合意に反し、訴外金吾、同小山はこれを守らず裏勘定を株主に公開しなくなったこと
(十三) これに対し、昭和三六年二月ころから株主の間で不満が出始め、同三七年三月ころ、前記山田定一名義の裏預金が税務署に発覚し、調査を受けたことを契機として訴外金吾と他の株主との間で原告会社の経理の公正さ、原告会社の存続あるいは解散、副業の運送業について別会社(産業運送有限会社)を設立するか否かをめぐり対立が生じ、訴外金吾は、原告会社を存続させ、産業運送有限会社を設立することに積極的であったこと
(十四) 昭和三七年五月ころ訴外金吾を除く株主が第九期(昭和三六年四月一日から同三七年三月三一日まで)の決算のための株主総会を開くよう要求したが、同訴外人はこれに応じなかったこと
(十五) 同じころ、昭和三五年度(昭和三五年四月一日から同三六年三月三一日まで)法人税申告につき更正決定を受けたこと
(十六) 訴外庄司、同臼井、同平柳昭は、当庁から会社解散についての株主総会招集の許可を受け、昭和三七年九月二九日株主総会を招集し、同総会において原告会社の解散が決議され、原告会社代表者柴田、訴外臼井、同庄司が清算人に選任されたこと
(十七) 右清算人らが訴外金吾に対し再三にわたり会社財産及び帳簿類等の引渡を請求したが、同訴外人はこれに応じなかったこと
(十八) そこで原告会社は、昭和三七年一二月五日当庁から会社財産帳簿等の引渡の仮処分決定を得て、そのころその執行をなしたが、前記(十一)の裏勘定帳簿および裏勘定に組入れられた財産は行方がわからず、取戻せなかったこと
が認められ(る。)≪証拠判断省略≫
2 そこで、昭和三七年五月当時裏勘定として存在していた現金、預金および債権の額につき検討する。
原告会社代表者柴田は原告会社代表者尋問において、「(昭和三七年五月ころ、訴外金吾は裏勘定が)四、五百万(円)ありますよと言っておりました」と述べる一方、脱税を摘発された時点で裏勘定がいくらあったかわからないと述べているなどその供述に明瞭さを欠く点が多く、従ってその裏勘定の残高に関する供述部分は信用するに困難であり、右に照らし、同人の証言調書である前出甲第五五号証についてもその裏勘定の残高に関する記載部分は信用することが困難である。
さらに証人臼井真治の証言、前出第四八号証の一、二についても同証言及び同号証によればその裏勘定の残高に関する供述及び記載部分は原告会社代表者柴田からの伝聞であることが認められ、前述のとおり裏勘定の残高に関する部分につき、原告会社代表者尋問の結果および甲第五五号証の記載が信用できないことに照らしてみると証人臼井真治の証言及び甲第四八号証の一、二記載中の裏勘定の残高に関する部分はいずれも信用できないといわざるを得ない。
次に≪証拠省略≫を総合すると、甲第二四号証は訴外金吾が原告会社代表者柴田に対し昭和三六年四月一日から同三七年三月三一日までの裏勘定の収支を説明するため作成し、右柴田に交付したものであることが認められるが、本件全証拠によるも甲第二四号証記載の数字の趣旨は明かにはならない。
次に前出第五〇号証の二について検討するに、原告会社代表者柴田は、同号証につき、昭和三六年一〇月ころ訴外金吾から受取ったものであり、その「B勘定1,219,800」という記載は同年九月一八日現在における裏勘定残高である旨供述しているが、右供述は前述のとおり未だ信用し難く、さらに本件全証拠によるもその後、昭和三七年五月ころまでの裏勘定の収支を明かにするには足らず、甲第五〇号証の二によっては未だ昭和三七年五月当時の裏勘定残高を明かにするには足りない。
右のとおり、以上の証拠によっては未だ昭和三七年五月当時、裏勘定として存在した現金、預金および債権の額を適確に推認するには足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
3 してみると、結局、原告において訴外金吾、被告テイ、同光司の横領行為により蒙ったと主張する損害額の証明がないことになり、その余の事実を判断するまでもなく請求原因2(二)の請求は理由がないといわなければならない。
四 次に請求原因2(三)につき判断する。
1(一) (ロ)、(ハ)、(ニ)の各車両の所有権につき判断するに、≪証拠省略≫を総合すると、右三車両は昭和三六年二月二四日原告会社が訴外高梨八二郎から合計一一〇万円で買受け、車両代金は原告会社から右訴外人に対し全額支払ずみであること、右各車両は営業ナンバー車であり公然と譲渡できないため譲渡担保に供したかの如く装ったこと、昭和三七年三月一四日原告会社において右各車両の保険契約をなしその保険金を支払っていることが認められ、これを覆すに足る証拠はない。
被告らは、昭和三六年三月二二日訴外金吾が右各車両を原告会社から譲受けたと主張しているが、≪証拠省略≫中、右にそう部分は信用できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
してみると右各車両は原告会社の所有であったと推認される。
(二)(1) (ヘ)、(ト)、(チ)の各車両がもと原告会社の所有(但し(チ)が代金完済を停止条件とする停止条件付所有権であることは原告の自陳するところである。)であったことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、(ヘ)、(ト)、(チ)の各車両は、昭和三七年二月ころから原告会社において産業運送有限会社を設立する準備を進めていた際、右会社設立の申請をなすについて現物出資する予定であった右各車両が原告会社名義ではまずいということで登録名義だけを訴外金吾名義に変更したこと、同年三月終りころ、訴外金吾を除く株主の間で産業運送の設立をとりやめる話がまとまったこと、昭和三七年六月一日原告会社において右(ヘ)、(ト)の各車両の保険金を支払っていること、(ヘ)については昭和三七年九月一七日完済まで、(ト)については同年八月三一日完済まで、(チ)については同年九月二一日まで原告会社において右各車両の月賦代金を支払っていたことが認められこれを覆すに足る証拠はない。以上によれば右各車両は原告会社において所有権((チ)については停止条件付所有権)を有していたと推認され(る。)≪証拠判断省略≫
(2) 被告らの抗弁2に対する判断
被告らは、原告が右(ヘ)、(ト)、(チ)の各車両につき別訴において訴外金吾の所有権を認めながら、本訴においてこれらにつき原告会社の所有であると主張するのは信義則、又は禁反言の法理から許されないと主張するが、別訴において、原告が当初右各車両は原告の所有であると主張していたが、その後その主張を撤回し、訴外金吾の所有であることを認めたことは当事者間に争いがない。≪証拠省略≫によれば別訴は詐害行為による会社(産業運送有限会社)設立取消の訴であったと認められ、右訴の前提としてまず設立が一応完了していることが必要であることは明らかである。≪証拠省略≫によれば右設立取消の訴の対象となっている産業運送有限会社の設立に際し訴外金吾が右各車両を現物出資したことになっていることが認められ、前述認定のとおり、原告会社において、右訴外会社設立の便宜上右各車両の所有名義のみを訴外金吾に書換えたものであると認められることからして原告が真意に基づき右主張の変更をなしたとは認められず、別訴における原告の主張は訴訟において主張を整理するためやむをえずなしたものであると推認される。
してみると、右の点に関し、本訴において別訴における主張と逆の主張をなしても、信義則違反、禁反言違反となるとは言えず、この点に関する被告らの主張は採用できない。
(三) (リ)の車両がもと原告の所有であったことに争いはなく、≪証拠省略≫によれば、訴外金吾自身昭和三七年一〇月一四日当時において右車両が原告会社の所有であることを認め、これを前提として決算書を作成したことが認められ、本件全証拠によるも、被告らの訴外金吾が原告から本件(リ)の車両の贈与を受けたとの主張事実を認めるに足る証拠はない。以上によれば右車両は原告会社の所有であったと推認され、これを覆すに足る証拠はない。
(四) 次に(イ)、(ホ)、(ヌ)、(ル)の各車両の所有権につき検討するに、≪証拠省略≫を総合すると、(イ)、(ホ)の各車両は昭和三七年一月末ころ東京ダイハツ株式会社から合計車両代金一二八万円、金利九万七、〇〇〇円で、(ヌ)、(ル)の各車両はそれぞれ昭和三六年六月二八日車両代金四七万七、〇〇〇円、加工代金一万二、五〇〇円金利五万四、二四〇円及び同月二三日、車両代金四七万七、〇〇〇円、加工代金二万六、五〇〇円、金利四万二、七五三円で協和トヨペット株式会社から、いずれも月賦で各販売会社が各車両の所有権を留保する旨の特約のもとに原告会社が購入したこと、(イ)、(ホ)の車両については昭和三七年九月三〇日までに前記代金等合計金額のうち五六万七、〇〇〇円を、(ヌ)の車両については同年一〇月五日までに代金等合計金額のうち四三万六九四〇円を、(ル)の車両については同年九月一五日までに代金等合計金額のうち四九万二五三円を原告会社において支払っていること、その後の右各車両の代金不払のため右各販売会社がそれぞれ右各車両を同年一一月中に引き上げたことが認められ、これを覆すに足る証拠はない。
してみると以上(イ)、(ホ)、(ヌ)、(ル)の各車両について、いずれも、昭和三七年一〇月中まで原告会社において月賦代金完済を条件とする停止条件付所有権を有していたと認められる。
(五) また、(オ)の車両については、≪証拠省略≫を総合すると、原告会社において昭和三六年五月一八日これを購入し、同三七年九月一九日その車両代金等を完済したことが認められ、右車両は原告会社の所有であったと認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
2 ≪証拠省略≫を総合すると、訴外金吾が昭和三七年六月三〇日(ヌ)、(ル)、(オ)の各車両の名義を被告テイに書換えたこと、原告会社解散後、その清算人らが再三にわたり訴外金吾に対し本件(イ)ないし(オ)の各車両の引渡を求めるも同訴外人はこれに応ぜず、さらに原告会社代表者柴田において同年一〇月一六日内容証明郵便にて本件各車両を引渡すよう要求したが相変らずこれに応じなかったこと、その後しばらくして同訴外人は夜間右各車両を平素保管していた車庫に入れなくなったこと、同年一〇月末ころ、原告会社代表清算人らが前記協和トヨペット株式会社及び東京ダイハツ自動車株式会社に対し車両残代金を支払うかわりに(イ)、(ホ)、(ヌ)、(ル)の車両を原告会社に引渡すよう交渉したが、(ヌ)、(ル)の各車両名義が被告テイとなっていたこと等を理由にこれを断られたこと、同年一一月一六日(ヌ)、(ル)、(オ)の各車両が被告テイ名義で協和トヨペット株式会社に新車の下取に出されたこと、同年一二月五日当庁より(ト)、(ヘ)、(チ)の各車両の引渡の仮処分決定を得てこれを執行しようとしたが、同月四日付で右三両は産業運送有限会社名義に変更されていたため執行ができなかったこと、結局原告会社は(イ)ないし(オ)すべての車両を取戻すことができなかったことが認められ、これを覆すに足る証拠はない。
以上によると、訴外金吾が本件各車両を右内容証明郵便の到達したころ、すなわち遅くとも同年一〇月中に横領したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
なお、原告は、訴外金吾、被告テイ、同光司が共謀して本件各車両を横領したと主張するが、本件全証拠によるも被告テイ、同光司が共謀していたと認めるには足りない。
3 そこで原告会社の蒙った損害につき判断する。
(一) (ロ)、(ハ)、(ニ)、(ヘ)、(ト)、(リ)、(オ)の各車両の横領により、原告会社の蒙った損害は右各車両の横領時における時価相当額というべきである。
(二) (イ)、(ホ)、(チ)、(ヌ)、(ル)の各車両について、原告はそれぞれその横領当時、代金完済を停止条件とする停止条件付所有権を有していたにすぎないといえるが、これを実質的に見ると前記各販売会社の所有権の留保は、車両代金債権の担保のためにすぎず、右各車両が滅失しても原告の各販売会社に対する車両残代金債務は消滅しないといわざるを得ない。してみると右各車両の横領により原告の蒙った損害は各車両の時価相当額それ自体であるというべきであるが、≪証拠省略≫によれば、訴外金吾において残代金全額を各販売会社に支払ったことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はなく、結局、車両残代金債務はすべて消滅していると認められ、現実に原告が蒙った損害は右各車両の時価相当額から当時の未払残代金額を控除した額であるとするのが相当である。
(三) そこで本件(イ)ないし(オ)の各車両の横領当時の時価を判断するに、中古車については毎年前年価額の〇・三一九の割合の価値が逓減し、新車として使用をはじめてから六年後の残存価値は新車時の価値と較べ一割になるものと言うべきところ(「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号))、≪証拠省略≫を総合すると、本件各車両の新車価額及び昭和三七年一〇月までの使用期間は、(イ)、(ホ)合計で一二八万円、(イ)、(ホ)各九月、(ロ)、(ハ)はそれぞれ七九万円、長くても五年一〇月、(ニ)は六八万円、長くても五年一〇月、(ヘ)は四八万四、五〇〇円、一年五月、(ト)は六二万四、〇〇〇円、一年五月、(チ)は五四万八、〇〇〇円、一一月、(リ)は三二万円、長くても一年一〇月、(ヌ)は四八万九、五〇〇円、一年四月、(ル)は五〇万三、五〇〇円、一年四月、(オ)は四九万八、五〇〇円、一年五月とそれぞれ認められこれを覆すに足る証拠はない。
してみると、昭和三七年一〇月当時、本件各車両の時価は(イ)、(ホ)合計して九七万三、七六〇円、(ロ)、(ハ)はそれぞれ八万四、九四九円、(ニ)は七万三、一二〇円、(ヘ)は二八万六、〇八九円、(ト)は三六万八、四六二円、(チ)は三八万七、七五六円、(リ)は一五万九、九九〇円、(ヌ)は二九万七、九〇三円、(ル)は三〇万六、四二四円、(オ)は二九万四、三五六円各相当であったと認められる。
また、(イ)、(ホ)、(ヌ)、(ル)の各車両の未払代金額は、前記認定により、(イ)および(ホ)は合計八一万円、(ヌ)については一〇万六、八〇〇円、(ル)については五万六、〇〇〇円であり、≪証拠省略≫によれば、(チ)の車両の未払代金額は二三万五、八〇〇円であると認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
してみると本件(イ)ないし(オ)の各車両の横領により原告会社の蒙った損害は二一〇万九、一五八円となる。
五1 ≪証拠省略≫によれば、原告会社の給与台帳に別表一ないし四記載のとおり(但し、別表一および二の昭和三五年五月分および六月分は除く)の従業員氏名および支給額の記載のあること、及びこれにそう振替伝票の作成されていることが認められる。
2 本件全証拠によるも、別表一、二の金員を訴外金吾が横領し、あるいは原告会社の業務に携わらない者に給料を支払ったあるいは二重払をしたことは認められず、かえって≪証拠省略≫を総合すると、昭和三五年五月ころ、実質は各業者の個人営業の集りにすぎなかった原告会社を実質上も会社経営に改めた際、倉持勝一の経営していた古石町販売所及び羽鳥照雄の経営していた住吉町販売所については従前どおりの個人経営の実態をそのまま残したため、現実には原告会社に留保されない利益が帳簿上は生じるため、これを帳簿上で償却するため、名目上、古石町販売所分として倉持勝一外九名に、住吉町販売所分として羽鳥照雄外七名に給料を支払った形にしていたことが認められこれを覆すに足る証拠はない。
3 次に、別表三、四について検討するに、本件全証拠によるも、原告主張の訴外金吾が、別表三、四記載の者において原告会社の事務をしたり業務に従事したこともないのに原告会社がこれらの者を雇い会社の業務に携わらせたもののごとく虚偽の出金伝票、賃金台帳を作って横領し、あるいは業務に携わらない者に不当に金員を支給しあるいは一部は二重払をしたとの事実は認められない。
4 してみると、請求原因3の請求は理由がない。
六 訴外金吾が昭和四〇年六月九日死亡し、被告らが同訴外人の共同相続人となったことは当事者間に争いがなく、被告らの各相続分は、被告テイが三分の一、その他の被告らが各一五分の二づつであることは明かである。してみると、前示四の訴外金吾の不法行為債務を、被告テイが七〇万三、〇五二円、その余の被告らが各二八万一、二二一円づつ承継したことになる(円未満切捨)。
(なお、原告は請求原因2において、同(三)の(イ)ないし(オ)の各車輛の横領につき、訴外金吾、被告テイ、同光司の共同不法行為として損害賠償の請求をしているが、弁論の全趣旨によれば、右共同不法行為が認められない場合は、被告テイ、同光司に対し、訴外金吾の不法行為債務を相続により承継したものとして請求する趣旨であると認められる。)
七 以上により原告の被告らに対する請求のうち、右六の金員及びこれに対する前記認定不法行為の時より後であること明白な昭和三七年一二月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める部分は正当としてこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 柏原允 裁判官 小倉顕 伊藤保信)
<以下省略>